2018年1月19日金曜日

仮想通貨・大幅下落につながったドル円の下落


 株式であれ債券であれ、一般の証券であれば、価格を考える際になんらかの基準がある。株式であれば企業収益が、国債や社債などの債券であれば、債券を発行する組織の信用力(元本を償還する能力)が基準となる。

 しかし仮想通貨の場合、(ビットコインが代表例だが)発行者(主体)が存在しないことが多い。発行者が存在しない以上、株式や債券のように発行者の経済価値や信用をもとにした基準も存在せず、基準をもとに価格を考えることもできない。

 仮想通貨の中には(リップルなどのように)発行者が存在するものもある。ただ仮想通貨は株式ではないため、仮想通貨の保有者が、仮想通貨の発行者に影響力を行使することはできない。そもそも仮想通貨の発行者のほとんどは、発行した仮想通貨の経済価値を保証しているわけでなく、仮想通貨の(何らか)に対し法的な義務も負っていない。発行者がすることといえば、発行した仮想通貨の機能に関するアピールくらいだろう。こうしたことから、発行者が存在する仮想通貨でも、発行者を根拠とした基準は不明瞭なものでしかなく、価格水準の妥当性を検討するには役に立たない。



 このため仮想通貨の値動きは、その場その場での需要動向に強く依存する。とはいえ、仮想通貨を実際に利用することは(現時点では)限られているため、仮想通貨の需要は、値上がり・値下がり益を期待した投機的な思惑(投機心)や、将来生ずるであろうと考えられる需要(期待需要)に基づくものとなる。

 投機心や期待需要は、取引参加者それぞれが抱くものであり、市場全体で共有される基準になりえない。このためか、仮想通貨の取引参加者の多くは、共有された唯一ともいえる基準として、直近の値動きを価格判断の基準に用いる傾向が強い。参加者は、直近の価格が上昇(下落)を続けると、さらなる上昇(下落)を期待・予想し、買い(売り)の動きを強める、ということだ。仮想通貨市場において、価格の上昇基調が続きながら、上昇ペースが加速するケースや、短期間で価格が大きく下落するのは、こうしたメカニズムによるものと言える。

 ビットコインを始めとする仮想通貨価格は、16日から17日にかけて大きく下落した。仮想通貨の代表的な存在であるビットコインは、日本時間16日未明の14000ドルから下落基調が続き、翌17日午後11時近くには1万ドル割れへと30%近く下落。円建てでは160万円前後から100万円割れへと40%近く下落した。他仮想通貨も16日から17日にかけて15~30%程度下落し、仮想通貨全体の時価総額は6500億ドルから4500億ドルに減少した。

 一部メディアは、仮想通貨価格の大幅下落の主因として、韓国や中国当局が仮想通貨取引に対する規制を強化するとの観測報道を指摘した。しかし、両国当局ともに、以前から仮想通貨取引に対する規制強化を示唆しており、16日から17日にかけての大幅下落の理由としては高い説得力があるとは言い難い。

 筆者の仮説でしかないが、今回の仮想通貨の大幅下落の一因は、ドル円の下落なのかもしれない。ドル円は、1月8日の113.4近辺をピークに下落基調が続き、16日未明には110.3円と、昨年9月15日以来の安値を記録した。

 ドル円と仮想通貨との間をつなぐのは日本の個人投資家だ。ドル円の下落で損失を計上した日本の個人投資家が、大きな含み益がある仮想通貨を売ったという見方である。

 外国為替証拠金取引(FX)業者の自主規制や調査業務を行う金融先物取引業協会は18日、2017年の店頭FX業者の取引高が4,313兆円と、2年連続で減少し、2014年以来の低水準になったと発表した。取引所FXを運営する東京金融取引所は、2017年の取引所FX(くりっく365)の取引枚数が約2900万枚(1枚は1万通貨単位)と、前年(2016年)から33.5%減少したと発表した。

 2017年にFX取引高が減少した一因として、円相場が対ドルを中心に小幅な動きが続いたことが指摘されているが、仮想通貨取引の普及も考えられる。仮想通貨の値動きは、為替相場に比べ非常に大きく、一部取引所では10倍以上のレバレッジをかけることもできる。積極的なFX取引者の一部が、小幅な値動きが続く為替相場に見切りをつけ、大きな値上がり益やトレーディング益が期待される仮想通貨に取引場所をシフトさせたとしても不思議ではない。現に、外為どっとコム総合研究所の調査によると、「仮想通貨を既に取引している」と答えた割合は昨年12月時点で8.6%と、同年5月調査の3.1%から上昇している。

 筆者の仮説は、大幅下落した後の仮想通貨の値動きとも整合的に見える。17日に1万ドルを割り込んだビットコインは、翌18日には12000ドルちょうど近辺まで上昇。しかし、本日(19日)は11000~12000ドルの間で伸び悩んでいる。一方、ドル円は18日早朝に110円台後半から111円台前半に急伸。しかし、その後のドル円は上値の重い動きが続き、原稿執筆時点(19日午後5時ころ)には110円台後半まで下落した。ドル円の急伸と、その後のじり安の動きは、ビットコインの動きと連動しているようにも思える。

 仮に筆者の仮説が正しければ、ドル円のさらなる下落は、仮想通貨の売り圧力の強まりにつながることになる。仮想通貨市場の取引参加者の一部からは、仮想通貨の下落局面は終了しており、再び上昇基調に入ったとの見方も出ている。しかしドル円の上値が重い現状を考えると、目先は慎重な見方を維持した方がよいように思える。

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