2017年3月16日木曜日

マーク・ファーバーのコメント(2017年3月)



今回も
マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート
の内容を一部ご紹介します。
http://www.tradersshop.com/bin/showprod?a=9933&c=2011281600009


博士と40年来の友人であるロバート・プレクターは
エリオット波動研究の第一人者として知られています。

著書『エリオット波動入門』は全米テクニカルアナリスト協会で
アワード・オブ・エクセレンス賞を受賞している名著です。
同書およびエリオット波動に関しては
http://amzn.to/2npj5zZ
をご覧ください。

大多数が米国株に悲観的だった70年代後半に
80年代の大相場を予見し
84年のトレード大会で444%のリターンを弾き出すなど
プレクターには数々の実績があります。

また、氏が90年代に指摘した米国資産の“最高潮”も
博士によると“実質的”にはそのとおりであり、
自分の見解と一致するとのことです。

さて、プレクターは最近、長年の研究成果をまとめた
800ページの大著を上梓しました。
http://amzn.to/2npkpTr

新著のテーマである「ソシオノミクス」は
むりやり訳すと“社会心理経済学”となるでしょうか。

相場に限らず社会変化の原動力は
人々が内的に知らず知らず共有している
「ムード(空気)」であり
空気を読むことで過去の事象の発端を説明し
将来の変化を予測していく科学だといえます。

行動経済学に近いような気がしますが、
ソシオノミクスは社会ムードを
唯一無二の原因としている点で、
アプローチが全く違うようです。

また、氏は現実離れした仮説で実用的でない
机上の方程式を作っている現代経済学や
社会変化の外的原因を説明するとされる
ニュースは全く役に立たないどころか
むしろ有害だと断じています。

博士はソシオノミクスと19世紀末に発展した
心理学的景気循環論との密接な関係を指摘して
プレクターの説を大方支持しながらも
社会の変動要因は心理だけではないと(無視するより、はるかに良いが)
またムードに変化を引き起こすものを理解することが
自分にとっては重要と考えているようです。

さらに、ニュースは百害あって一利なしというわけではなく
読む人の意識が重要だと示唆しています。

さて、今月の投資方針ですが、
プレクターの“お弟子さん”のレポートを引用しながら
博士が注目する市場のひとつである
シンガポール株・REITについて
具体的銘柄を挙げて解説しています。

2017年3月14日火曜日

杞憂に終わると思われる地銀の外債売却による円高の進展

 一部メディアは、金融庁が地方銀行(地銀)の資産運用部門に絞って立ち入り検査を実施すると報じた。金融庁は、地銀の運用におけるリスク管理体制を検証し、含み損を抱えた場合の対応策や投資判断基準を調べるという。また同庁は、頭取ら経営陣がどの程度リスクを認識し、主体的に運用に関わっているかどうかも検証すると報じられている。

 日銀によるマイナス金利政策などで運用難の地銀は、相対的に高い利回りを求め、外国債券(外債)への投資を拡大してきた。ところが、昨年11月の米大統領選を機に米国を始めとする外国長期債利回りは上昇(債券価格は下落)。一部地銀は、金利上昇により数百億円単位の損失を計上したと報じられている。

 金融庁が地銀に立ち入り検査を実施するとの報道で、地銀は保有する外債を取り崩すとの見方が一部から示されるようになった。金融庁は、融資を絞る一方で運用の比重を高める金融機関の姿勢に不満を持っており、地銀の多くは金融庁をはじめとする当局の意向に従順な傾向にあるといわれている。今回の金融庁の検査をきっかけに、地銀が外債保有の削減を進める展開を想定してもいいだろう。

 全国地方銀行協会が月次で公表する地方銀行の主要勘定によると、地銀64行が保有する外国証券は、今年(2017年)1月時点で12.7兆円。リーマンショック後の2011年や2012年の頃の外国証券保有額は6兆円前後だっただけに、地銀が当時の水準(6兆円前後)まで外国証券の保有額を削減し、削減分を円建て資産に換える可能性も考えられなくはない。

 しかし仮に地銀が外債を中心に外国証券の保有額を削減し、削減分を円建て資産に換えたとしても、円相場に与える影響は限定的と思われる。地銀による外債投資の多くは、為替ヘッジ付きであるほか、地銀による外債売却の規模は(そもそも)大きくならない可能性が高いからだ。

 ヘッジ付き外債投資とは、外貨建債券への投資の際に為替ヘッジをつけることで為替変動によるリスクを回避すること。為替ヘッジは為替先物予約で外貨を自国通貨に交換する契約を結ぶことで実施されるため、ヘッジ付きの外債投資は、為替市場の需給に対し中立的と考えられる。

 地銀による外債投資のうちヘッジ付きの割合を正確に把握することはできないが、大手生保の運用計画などから推察すると、少なくとも外債投資の4割程度はヘッジ付きと思われる。つまり地銀が保有する外国証券(約13兆円)のうち5兆円程度は、たとえ売却されたとしても為替市場の需給に影響を与えない。

 地銀が保有する外国証券のうち、残り8兆円が外貨建てであるとし、その半分の4兆円が売却されると考えてみよう。しかし、その場合でも、円高圧力が強まるとは考えにくい。たとえ金融庁の検査が入ったからと言って、地銀「全体」が保有する外国証券を我先にと慌てて短期間で売却するわけではないからだ。たとえばリーマンショックで金融危機が世界的に広がった2008年の時ですら、地銀64行が売却した外国証券額は合計1.6兆円(月平均で1400億円)程度に過ぎなかった。

 日本の国際収支統計によると、昨年11月から今年1月までの3カ月の間、日本の証券投資は月平均4.1兆円(3カ月計で12.2兆円)の売り越し。この影響もあってか、ドル円は今年1月に高値の118円から112円に下落したが、2月は111円台半ば近辺を底に下げ渋り。3月は一時115円台に回復している。数カ月間に実需で数兆円の円買いが発生すれば円高の動きも強まるだろうが、地銀全体が外国証券を数千億円程度売却したとしても、それで円高が大きく進むとは考えにくい。

 そもそも地銀が外債投資を積極化させた背景には円債利回りの低下がある。日本の10年債利回りは今年に入って概ね+0.05~+0.10%の範囲で推移。地銀全体が、リスク管理の観点から保有する外国証券を多少削減することはあっても、外国証券を積極的に売却し、0.1%に満たない円債を買い進めるとは考えにくい。

 今後ありうるとすれば、金融庁が地銀にクギを刺したことで、地銀による外債投資が抑制され続けることだろう。ただ日本国債の利回りが日銀の金融政策によって低水準に抑えられる一方で、米国を中心に外債利回りが上昇する環境が続く以上、大手銀行や生保といった他金融機関は、これまでと変わりなく淡々と外債投資を広げていくと予想される。金融機関全体で外債売却が進み、円高圧力が強まるとの展開は、杞憂に終わると思われる。