2014年8月1日金曜日

東京電力から福島県の個人に支払われた賠償金で拡大した福島県経済

 福島第一、第二原発事故(以下、原発事故)による放射能汚染に対する賠償金の使い道について日本の一部メディアが報じた内容が話題になっているようです。報道では、楢葉町からいわき市に避難した家族が一時、月収200万円になったことを紹介し、現在でも家賃、所得税、住民税、医療費が免除されていると説明しています。また原発事故による避難者が、賠償金を元手に高級外車や高級腕時計の購入や、ギャンブルや遊興に勤しんでいるとも報じられています。また震災から半年は賃貸物件に人気が集中したものの、その後は中古住宅が売れ始め、震災から2年経つと、土地の購入が増えたという不動産業者のコメントも掲載されています。

 避難者による浪費の真偽は定かではないにせよ、福島県景気が全国平均に比べ堅調のように見えるのは否定できないと思います。経済産業省が発表する大型小売店販売額をみると、福島県は消費税率引き上げの影響で今年4月は前年比2.4%減に落ち込みましたが、5月は同3.6%増、6月は同2.7%増と2カ月連続の前年越え。一方、全国は4月から3カ月連続の前年割れです。住宅着工件数をみると、2012年以降、福島県は全国平均を大きく上回る伸びを続けています。



 東京電力は、原発事故で避難を余儀なくされた個人、法人、個人事業主などに対し、2011年10月から(仮払いではなく本払いとして)賠償金の支払いを始めています。個人に対する賠償金は、避難生活等による精神的損害、就労不能損害、その他実費(避難・帰宅等に係る費用相当額、家賃に係る費用相当額)などに対して支払われています。

 東京電力がこれまで支払った賠償金総額は、今年7月25日現在、約4兆1,099億円。そのうち1兆8,002億円が個人に支払われていますが、自主的に避難した個人に対しては別に計3,530億円も支払われており、計2兆1,532億円(総賠償金額の52.4%)が個人に支払われたことになります。

 東京電力の資料によると、同社が支払う賠償金の75%が福島県向けであり、そのうち70%が個人向けとあります。福島県在住の個人が受け取った賠償金額は約1兆1,304億円(=2兆1,532億円×75%×70%)と推計され、今年4-6月期は(月によってバラつきがあるものの)月間700億円強が支払われていると考えられます。


 福島県在住の個人に支払われた賠償金の一部は預金に回っています。福島県の個人預金残高をみると、原発事故発生以降、増加基調で推移。特に2013年に入ってからは着実に拡大を続けています。


  もちろん福島県の個人預金の増加分が全て東京電力から支払われた賠償金によるものではありません。しかし福島県の個人預金の伸びが原発事故以降に全国の伸びを上回り続けていることから、賠償金が個人預金の伸びを後押ししていると考えられます。


  東京電力から支払われた賠償金のうち、どの程度が福島県の個人消費や住宅着工に回ったかは、支払われた賠償金から賠償金によって増えたであろう個人預金を差し引くことで推計できます。

 たとえば昨年度(2013年度)をみると、支払われた賠償金総額は1兆5,714億円。そのうち福島県在住の個人に支払われたのは約8,250億円(=1兆5,714億円×75%×70%)と推計されます。同年度に個人預金は3,063億円(前年比7.2%)増えていますが、そのうちの一部は賠償金の支払いとは無関係に増えた可能性もあります。そこで、ここでは全国の個人預金の伸び(前年比2.8%増)を賠償金とは無関係に伸びたと仮定し、差分となる1,874億円が賠償金支払いによって増えた個人預金額とします。8,250億円から1,874億円を差し引いた6,376億円が福島県の個人消費や住宅着工に回ったと試算されます。県民一人当たりにすると32万円。2011年度の福島県の県内総生産(GDP)は6兆4,324億円ですから、上記試算によると、東京電力による賠償金支払いによって、福島県の県内総生産(GDP)は9.9%も押し上げられたことになります。仮に個人預金の伸び全てが賠償金支払いによるものと仮定しても、2013年度に福島経済(個人消費と住宅着工)に流入したマネーは5,187億円(=8,250億円-3,063億円)と試算され、2011年度の福島県・県内総生産(GDP)の8.1%となります。

 こうした試算は、かなりラフなものですから、賠償金の支払いだけで福島県の経済規模が1割近く押し上げられた、という結果は、やや過大なものである可能性があります。ただ、東京電力による賠償金の規模が莫大であるのも事実で、程度の差こそあれ、東京電力による賠償金の支払いが、福島県経済に大きな影響を与えていることは否定できないと思われます。

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